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最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)782号 判決 1970年1月30日

主文

原判決中被上告人に関する部分を破棄する。

被上告人の本件控訴を棄却する。

原審および当審における訴訟費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人鈴木匡、同復代理人大場民雄、同清水幸雄の上告理由第三点について。

原判決は、本件立退通知は違法であり、本件除却実施当時被上告人に対しては立退通知がなかつたというべきであり、本件建物除却実施の際屋外に搬出された被上告人所有の家財道具に対しては、被上告人に受領の義務はなく、名古屋市長が適宜保管すべき義務があつたものと解すべきである旨判示する。

論旨は、これに対して、右立退通知に多少の些細な瑕疵、表示の誤りがあつたとしても、右通知が被上告人に対して本件除却建物の立退通知であつたことは容易に十分了知されたものであり、右立退通知による除却執行の場合、被上告人に家財道具の受領義務があつたことは明白であり、名古屋市長にその保管義務はない旨主張する。

本件建物は、訴外Eが道路上に建築した不法建物であつたが、その後被上告人が譲り受け、これに増築等を施したこと、そこで、名古屋市長は昭和三二年七月二四日被上告人に対し、右増築部分の除却を命じ、ついで昭和三二年八月八日除却実施予告をなし、更に、昭和三二年八月二六日除却実施通知をなしたこと、これに対し、被上告人から数回にわたり、みずからこれを除却することを理由として除却猶予の嘆願がされたので、名古屋市長は被上告人がみずから除却するのを待つていたが、被上告人はその後も右増築部分を除却しないので、名古屋市長は昭和三五年一二月二六日被上告人に対し本件建物全部を除却する旨予告し、また、本件建物除却の担当係員であつた名古屋市吏員Fも被上告人に対し本件建物は不法建築であるから本件建物全部を除却するよう申し向けていたこと、名古屋市長は、昭和三六年一〇月三日、本件建物を、名古屋市a区b町c丁目d番地家屋番号第e番のf、木造瓦葺二階建店舗、建坪一六坪九合五勺、外二階一〇坪三合八勺と表示(以下甲表示という)し被上告人に対し立退通知を発し、訴外Gを所有者として同人に対し、除却実施通知を発したところ、Gは右通知を受領したが、被上告人は、被上告人占有部分は被上告人の所有である旨主張して、右通知の受領を拒否したので、名古屋市長は昭和三六年名古屋市告示第二〇四号、同第二〇五号をもつて右通知に代わる公告をしたこと、名古屋市長が右のごとき取扱をしたのは、本件建物全部につき、Gが、昭和三五年三月三一日、甲表示の建物として自己名義に保存登記をなしたためであること、ところが、昭和三六年一〇月三日当時、本件建物一棟のうち、東部の門口一間半、奥行一間半の部分はGの所有であり、その余の部分は被上告人の所有であつたこと、被上告人は、右立退通知の送達をうけるや登記簿を調査し、G名義保存登記の訂正申請をなし、G名義の前記甲表示建物の家屋台帳および登記簿の表示は、昭和三六年一〇月五日付で、木造瓦葺平屋建一〇坪四合五勺に訂正され、かつ、名古屋市a区g町c丁目d番地家屋番号第e番のh、木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗兼住宅建坪一二坪九合七勺外二階六坪五合(以下乙表示という)なる被上告人名義の保存登記がなされたこと、昭和三六年一〇月九日、被上告人は乙表示の建物をHに売渡し、同年一〇月一二日その所有権移転登記をなしたこと、昭和三六年一一月一四日、名古屋市長は、本件建物に対し、土地区画整理法七七条一項の除却処分を実施し、その際、被上告人所有の家財道具は、名古屋市長の委託した人夫によつて本件建物の屋外に搬出され放置されたこと、右除却処分がされた現場には、建物は本件建物一棟しか存在しなかつたこと、以上の事実は、原審の適法に確定するところである。

そして、右事実関係によれば、昭和三五年一二月二六日、名古屋市長が被上告人に対してなした除却の予告は、土地区画整理法七七条二項所定の通知にあたり、被上告人は、これによつて、既に本件建物の除却処分を受忍すべき義務を負つたものであり、前記事実関係のもとにおいては、本件立退通知は、その表示にかかわらず、本件建物一棟全部についての立退通知として有効なものであり、被上告人は、本件除却処分を忍受し、かつ、本件建物から搬出された本件家財道具を受領すべき義務があり、名古屋市長には、右物件の保管義務はないものと解すべきである。

したがつて、右の説示と異なる原判決は、法令の解釈適用を誤り、ひいて理由不備の違法があるというべきであつて、論旨は、この点理由があり、その余の上告理由について判断を加えるまでもなく、原判決は、破棄を免がれない。そして、以上説示の理由にのつとり、さらに、原審確定の事実関係を判断すると、被上告人の本件損害賠償請求は理由がなく、被上告人の請求を棄却した第一審判決を支持すべきことが明らかであるから、被上告人の本件控訴は棄却すべきものである。

よつて、民事訴訟法四〇八条一号、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石田和外 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)

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